2023年
※御蔭様を持ちまして無事 Online Digital Museum 
開設25周年を迎えることができました。


『明治回天集』1880年(当館所蔵)
佐久間象山「獄中冩懐」1854作
久憂辺事歎天遠
●◎◯●◎◯●
忽墜此中悲海深
◯●●◎◯●◯
欲為皇朝存至計
●◎◯◯◯●●
敢因吾利労知音
●◯◯●◎◯◯
鶏鳴不已晦冥夜
◯◎◯●●◯●
鶴韻応通蓊鬱陰
●●◎◯●●◯
寄語吾門同志士
●●◯◯◯●●
莫将栄辱負初心
●◯◯●●◯◯
※記号の◯は平声●は仄声◎は両用、平起
※韻は下平声の十二侵(


訓読
「獄中懐(おも)いを写(しる)す」(七言律詩)
久しく辺事(へんじ)を憂(うれ)えて天の遠きを嘆く
忽(たちま)ち此の中(うち)に墜ちて海の深きを悲しむ
皇朝(こうちょう)の為に至計を存(そん)せんと欲し
敢て吾が利に因(よ)りて知音(ちいん)を労せんや
鶏鳴(けいめい)已(や)まず晦冥(かいめい)の夜
鶴韻(かくいん)応(まさ)に通ずべし蓊鬱(おううつ)の陰
語(ご)を寄(よ)す吾が門(もん)同志の士(し)
栄辱を将(もっ)て初心に負(そむ)くこと莫(なか)れ

※坂田新『江戸漢詩選4志士』(岩波書店1995)参照


《掲示板》
◎1月の行事
1月 1日(日);「房総みんけん館通信」第20号発行
1月 8日(日):地域環境整備共同作業
1月11日(水);秀峰(比左)忌(板倉中の妻の命日)
1月18日(水);七郎忌
(川名七郎命日)
1月31日(火):確定申告書類整理、収支内訳書作成

◎民権林園
☆収穫:大豆(豊作)、高菜(並作)、長葱(並作)
☆植付:
☆花々:山茶花(赤)、水仙(白・黄)、菜花(黄)

◎異常気象・災害・感染症
▼新型コロナ感染拡大第8波、一日の感染者20万人超、一日の死者は約500人、1月中の死者1万人超、最悪の数字更新。鴨川市内の医療機関で30人のクラスター(『千葉日報』オンライン)。「命あっての物種」Without life there is nothing.
▼カリフォルニア州で季節外れの大雨洪水被害。

◎寄贈寄託資料・連絡通信コーナー(1月)
□書籍『大熊信行と凍土社の地域文化運動』論創社2022年4月
□パンフ『講談「天福の島石川自由民権物語」発表会』2022年11月13日
□書籍『広域蜂起秩父事件』まつやま書房2022年12月1日
□会報『全国みんけん連ニュース「自由民権をひらく」№5』2022年12月16日
□冊子『思文閣古書資料目録第276号』2022年12月
□書籍『平和っていいね』私家版2022年12月



《厭戦いろは歌留多》


謹賀新年 今年も何卒宜しく御教導をお願い申し上げます。

正月は「江戸いろはカルタ」のパロディーを作っています。「反戦いろは歌留多」、「不戦いろは加留多」等々、様々な題名が思い浮かびました。パロディーなので取り敢えず「厭戦(えんせん)いろは歌留多」(仮題)とします。

「江戸いろはカルタ」については、『和英諺・いろはカルタ』(研究社出版1985年)、『日本国語大辞典』(小学館2000年)、『岩波いろはカルタ辞典』(岩波書店2004年)を参照し、少年少女のために日本語のラップを字に、英文のRapにしました。

拙い英文Rap(ラップ)は私訳です。「ラップ」は、韻を踏みながらリズミカルに語って社会を風刺する音楽ジャンルのことです。お手すきの折に御高覧をお願い申し上げます。


新春恒例の拙句を二句(英語俳句も拙作)。
一発のミサイル闇が凍りつく・・・・・・・・・・・(凡一)
 On the infrastructure facility,
 when one missile explodes
 all darkness is freezing.

infrastructure facilityはインフラ施設。
ラップとは心温(ぬく)もる風刺にて・・・・・・・(凡一)
 Where there is a rap
 there is a heartwarming satir,

 yesterday you cried but today smile.
satirは風刺(ふうし)。

「厭戦いろは歌留多」ラップ Anti-War Proverb Cards Rap


(い)
りは愛がなければ発する。  ぬもあるけばうにあたる。
If he is angry without love, he will explode.  If a dog walks, he will be hit by a stick.


(中略)


(京)ーウに平和の夢デッサに幸福の夢。 ☜ ょうのゆめおさかのゆめ。
The
 dream of peace in Kiew and the dream of happiness in Odessa.   The dream of Kyoto and the dream of Osaka.
※(初案)南の紀念館連の慰霊塔。 ☜ のゆめさかのゆめ。
The memorial tower of Dalian and then 
the memorial hall of Nanjing. ☜  The dream of Kyoto and then the dream of Osaka.

(2023年1月)



梁川星巌「九日書懐」漂泊詩1831(天保2)年9月
零落復零落
◯●●◯●
又逢秋暮

●◎◯●韻
青衿人老矣
◯◯◯●●
黄葉雨凄

◯●●◯韻
浪跡水雲冷
◎●●◯●
幽憂天地

◯◎◯●韻
只須多泛菊
●◯◯●●
倒我掌中

●●●◎韻
※記号の◯は平声●は仄声◎は両用。
※仄起、韻は上平四支(
時其知巵)。
※上掲の漢詩集『明治回天集』所収。
【 訓 読 】
「九日懐(おも)いを書す」(五言律詩)
零落(れいらく)復(ま)た零落
又(また)逢う秋暮(しゅうぼ)の時
青衿(せいきん)人(ひと)老いて
黄葉(こうよう)雨(あめ)凄其(せいき)たり
浪跡(ろうせき)水雲(すいうん)冷え
幽憂(ゆうゆう)天地(てんち)知る
只(ただ)須(すべか)らく多く菊を泛(うか)べ
我が掌中の巵(さかずき)を倒(さかしま)にすべし
※『註解星巌全集第1巻』(梁川星巌全集刊行会1956年)参照
※『江戸詩人選集8巻頼山陽・梁川星巌』(岩波1990年)参照

*  *  * 

梁川紅蘭(妻)「戊午十二月二十三日作」獄中詩1858(安政5)年
驚回陸地怒濤飜
○◎●●●○○
寡婦敢當能雪寃
●●●○○●○
一点氷心期萬古
●●○○○●●
未曾通賄要牽援
●○○●◎○◎
※記号の◯は平声●は仄声◎は両用。
※平起、韻は上平十三元(飜寃援)。
※二四不同二六対、下三連規則通り。

【 訓 読 】
「戊午(ぼご)十二月二十三日作」
(七言絶句)
陸地を驚回(きょうかい)して怒濤(どとう)飜(ひるがえ)る
寡婦(かふ)敢て能(よ)く冤(えん)を雪(そそ)ぐに当(あた)らんや
一点の氷心(ひょうしん)万古(ばんこ)を期(き)す
未だ曾(かつ)て賄(わい)を通じて牽援(けんえん)を要(もと)めず
※『註解星巌全集第4巻・紅蘭詩集』(〃全集刊行会1958年)参照
※福島理子注『江戸漢詩選第3巻・女流』(岩波書店1995年)参照



《みんけん館掲示板》

◎2月の行事
2月 3日(金);節分
2月 4日(土):立春
2月16日(木);
確定申告オンライン申請
2月25日(土):ズーム研究会

◎民権林園 Experimental Farm
△収穫:菜花(並作)、長葱(並作)、高菜(並作)、甘夏(並作)、蕗の薹(並作)
△植付:ジャガイモ
△花々:水仙(白・黄)、菜花(黄)、蒲公英(黄)、梅(白・紅)

◎異常気象・災害・感染症
▼トルコとシリアで連続大震災、死者約5万人、東日本大震災の死者不明者数を上回る。
▼アフリカ南東部で巨大サイクロトロン被害。

◎みんけん館寄贈寄託資料・連絡通信コーナー
□会報『千葉史学第81号』2022年12月
□通信『NPОフォーラムだより№103』2023年1月1日、絵葉書「旧安房高等女学校版画」
□会報『福島自由民権大学通信30号』福島自由民権大学事務局2023年1月30日
□通信『評論№226』日本経済評論社2023年1月31日
□会報『秩父』秩父事件研究顕彰協議会2023年1月※大野苗吉の墓碑
□チラシ『高知近代史研究会第112回研究会、イタドリの商品化をめぐるグローカルヒストリー』2023年2月11日



続「厭戦いろは歌留多」Anti-War Proverb Cards Ⅱ

2月以降も「厭戦いろは歌留多(日本語・英語)」の作詞を続けましょう。今月は「江戸いろは歌留多」ではなく、140年前の自由民権期の「上方(かみがた)いろは歌留多」を参照します。

近藤堅三英譯『日本いろはたとへ英譯 ALPHABETICAL PROVERBS OF JAPAN, TRANSIATED INTO ENGLISH 』(出版人山岸彌平1886年)は、『続ことわざ研究資料集成第18巻』(大空社1996年)に復刻されています。英訳者の近藤堅三は出版時、大阪府民でした。

(は)
りのあなからんのぞく
To look at the sky through the hole of a needle.
(前掲書)
花(ばいか)散っ三年(みとせ)奇病の武漢かな
Three years have passed through Wuhan with a strange disease, and now white plum blossoms fall again.
(当館)

(に)
かいからぐすり。
Eye water applied
from the second story to a person on the ground.
(前掲書)
露友好は江戸時代から、郷土の所旧跡。
Monument of Japan-Russia friendship
from the Edo period, is famous historic site on the coast in Kamogawa.
(当館)
※千葉県鴨川市の海岸線に「ロシア人上陸の地」記念碑(1739年日本上陸)。

(お)
にもゅうはち
A fiend eighteen years old.
(前掲書)
人達に抗議た環境活動家のグレタも二十歳
Swedish environmentalist Greta who protested against adults, turns 20 years old.
(当館)
environmentalist は環境保護主義者。

(や)
みにっぽう。
To discharge a gun in a dark night.(前掲書)
バイト強盗殺人。
To
 steal and kill, in a dark part-time job.
(当館)

(ま)
かぬたねはえぬ。
Not sown not grown.(前掲書)
スクなしで感染予防できない。
Not wear mask, not prevent infection.
(当館)

(け)
いはみをすける。
Accomplishments 
help a man.
(前掲書)
法九条は平和のす)け。
Article 9 of the Japanese Constitution, helpa people seeking world peace.(当館)

(す)

ずめひゃくまでどりわすれぬ
The sparrow does not forget dancing though it be a hundred years old.(前掲書)
まじいトルコ・シリア地震百年に一度。
Once in a hundred years, two great earthquakes happened at the same time in Turkey and Syria.(当館)

(2023年2月)



◇安政大獄期の女流獄中詩
梁川紅蘭「己未正月廿九日、獄中作」1859(安政6)年
誰把弧鸞付網塵
○●○○●●○
囚飛禁舞太艱屯
○○◎●●○○
栄衰寵辱固常事
○○●●●○●
誰害乾坤不測神
○●○○◎●○
※記号の◯は平声●は仄声◎は両用。
※仄起、韻は上平十一真(塵屯神)。
※二四不同二六対、下三連規則通り。

【 訓 読 】
「己未(きび)正月廿九(にじゅうく)日、獄中作」
誰(たれ)か弧鸞(こらん)を把(と)りて網塵(もうじん)に付す
飛ぶを囚(とら)え舞うを禁じて太(はなは)だ艱屯(かんちゅん)
栄衰(えいすい)寵辱(ちょうじょく)固(もと)より常時
誰(たれ)か害せん乾坤(けんこん)不測(ふそく)の神(しん)

※『註解星巌全集第4巻紅蘭詩集』(星巌全集刊行会1958年)参照
※福島理子注『江戸漢詩選第3巻・女流』(岩波書店1995年)参照

* * * * *

(参考)自由民権期の女性獄中詩
中島湘烟「偶賦詩(一)」1883(明治16)年10月作
假令吾如蠖曲身
●◎○◎●●○
胸間何屈此精神
○◎◎●●○○
雨聲無是母親涙
●○○●◎◎●
情殺獄中不寢人
○●●○◎●○
※記号の◯は平声●は仄声◎は両用。
※仄起、韻は上平十一真(身神人)。
※二四不同二六対、下三連規則通り。

【 訓 読 】
「偶(たまたま)詩を賦す(一)」
仮令(たとい)吾(われ)蠖(かく)の如く身を曲ぐるとも
胸間(きょうかん)何(なん)ぞ屈せん此(こ)の精神
雨声(うせい)是(こ)れ母親の涙なからんや
情殺(じょうさつ)す獄中(ごくちゅう)寝(い)ねざるの人
※中島湘烟の起句の「蠖(かく)」は、しゃくとりむしのこと
※石川榮司・藤生貞子編纂『湘烟日記』(育成會1903年)参照
※『日本近代思想大系22差別の諸相』(岩波書店1990年)参照

* * * * *

安政大獄期の護送中作
頼三樹三郎「出都途上」1859(安政6)年
當年意氣欲凌雲
◎○●●●○○
快馬東馳不見山
●●○○◎●○
今日危途春雨冷
○●○○○●●
檻車揺夢度函關
●○◎◎●○○
※記号の◯は平声●は仄声◎は両用。
※平起、韻は上平の十五刪(山關)。
※二四不同二六対、下三連規則通り。

【 訓 読 】
「出都(しゅっと)途上(とじょう)」
当年(とうねん)の意気(いき)雲を凌(しの)がんと欲(ほっ)す
快馬(かいば)を東(ひがし)へ馳(は)せ山(やま)を(み)見ず
今日(こんにち)危途(きと)春雨(しゅんう)冷(ひ)ややかなり
檻車(かんしゃ)夢(ゆめ)も揺れ函関(かんかん)を渡(わた)る

※頼三樹三郎と薫陶学舎の嶺田楓江は梁川星巌の漢詩塾で同門。
※真田秀吉集録及註『頼三樹詩集』(自家版1960年)参照。
※『日本史籍協會叢書別編32詩歌』(東大出版会1974年)。


《みんけん館掲示板》

◎3月の行事
3月 5日(日);江村栄一記念賞授賞式(県外出張)
3月11日(土):東日本大震災12周年
3月13日(月):地域行事
3月21日(火):春分の日、墓参
3月31日(金):研究会(午前)資料調査(午後)


◎みんけん林園 Experimental Farm
△収穫:菜花(並作)、蕗の薹(並作)
△植付:ジャガイモ、高菜、ブロッコリィ
△花々:水仙(白・黄)、菜花(黄)、蒲公英(黄)、梅(白・紅)、蓮華草(白・紫)

◎異常気象・災害・感染症
▼トルコ・シリア大地震の死者5万人超。
▼イタリアで干ばつ、ベネチア運河の水位低下。

◎みんけん館寄贈寄託資料・連絡通信コーナー
□書籍『関東大震災 描かれた朝鮮人虐殺を読み解く』(新日本出版社2022年8月10日)
□論文「近代成立期日本における民主主義・ナショナリズム・平和」(『福音と世界』新教出版社2022年9月号)
□冊子『2022年第4回湘南社自由民権資料展/第8回民権講座❝盲目の民権家府川謙斉の生涯❞』雨岳文庫2022年10月
□論文「近代成立期日本における選挙権者像と女性参政権」(『ジェンダー研究が拓く知の地平』明石書店2022年12月25日)
□書籍『植木枝盛憲法草案と日本国憲法』高知市立自由民権記念館友の会ブックレット№10、2022年12月25日)



続「厭戦いろは歌留多」Anti-War Proverb Cards Ⅱ

3月も「厭戦いろは歌留多(日本語・英語)」続編の作詞を続けましょう。大正デモクラシー期に出版された『露國民衆文学全書第五編・ろしあ俚諺集』(大倉書店1920年)には、「戦争」に関係するロシアの「ことわざ」が多数収録されています。著者の昇曙夢(のぼり・しょむ)は鹿児島県出身のロシア文学者でした。

抜粋して25箇条を紹介します。(   )の平仮名は引用者。
①狼が村の近くで吠えれば厳寒が来る、でなければ戦争がある。
②性急は貴族のもの、熟慮は百姓のもの。
③一つ穴に二匹の熊は住み得ない。
兵士は戦ひ、妻は家で悲しむ。
狼は天性によって酷(むご)く、人は嫉妬によって酷し。
如何(いか)なる兵卒も陸軍大将たらんことを欲し。如何なる水兵も海軍大将たらんことを欲す。
狼が怖(こわ)くば林へ行くな。
何を拾はなくとも足許(あしもと)を身よ、さすれば足を怪我しない。
生きることは苦しむこと、けれど死にたくない。
軍勢は将軍によって堅く、監獄は垣によって堅し。
皆滅びるよりは、一人滅びる方がよい。
戦ひに大勢(おおぜい)を集めても相談相手になる者は至って少ない。
弱い敵も時には酷(ひど)く復讎(しゅう)する。
戦ひに行く時誇るなかれ、戦ひより歸(かえ)るとき誇れ。
自由なる人は何物をも怖れず。
狼はどんな年にも毛が變(かわ)る、しかし氣質(きしつ)は變らない。
戦ひに行っても剣(つるぎ)は抜きたくない。
一つ場所からでもまちまちの報道。
民衆は自己のために防禦(ぼうぎょ)し得(う)る。
時には内應者(ないおうしゃ)も買はれる、けれど内應者は愛されない。
力の跋扈(ばっこ)する所、法則は冷却する。
将軍の願ひは厳格な命令。
愉快な悲哀、兵隊の生活。
㉔戦ふならば憂(うれ)ふる勿(なか)れ、憂ふるならば戦ふ勿れ。
最後まで破壊する者には榮冠(えいかん)なし。

(『続ことわざ研究資料集成第17巻・ろしあ俚諺集』大空社1996年)

英文については引き続き、自由民権期に出版された近藤堅三英譯『日本いろはたとへ英譯 ALPHABETICAL PROVERBS OF JAPAN, TRANSIATED INTO ENGLISH 』(出版人山岸彌平1886年)を参考にします。


(ふ)
しはくわねどかようじ。
A knight should be upright 
though he has scanty food.
(前掲書)
リンケンはユダヤ系移民がラブロフは生粋(きっすい)のスラブ人。
The Foreign Minister Lavrov is a natural-born slav 
though the Secretary of State Blinken is a jewish immigrant
.
(当館)


(み)
おる

Both 
the rich and the poor 
can live an honest life.
(前掲書)
サイルが降り注ぐ時、に惨めな両国の民衆
When missiles fall like rains both Ukrainian people and Russian people must be miserabl.
(当館)

(2023年3月)


江村賞授賞記念 Online 特別展(第10回)
(5月初旬~10月下旬)
- 自由民権と志士の漢詩 -


上條螘司編『明治回天集』1880年(当館蔵)↑


頼三樹三郎「出都途上」1859(安政6)年

當年意氣欲凌雲
◎○●●●○○
快馬東馳不見山
●●○○◎●○
今日危途春雨冷
○●○○○●●
檻車揺夢度函關
●○◎◎●○○
※記号の◯は平声●は仄声◎は両用。
※平起、韻は上平の十五刪(山關)。
※二四不同二六対、下三連規則通り。

【当館の訓読】
「出都(しゅっと)途上(とじょう)」

当年(とうねん)の意気(いき)雲を凌(しの)がんと欲(ほっ)す
快馬(かいば)を東(ひがし)へ馳(は)せ山(やま)を見(み)ず
今日(こんにち)危途(きと)春雨(しゅんう)冷(ひ)ややかなり
檻車(かんしゃ)夢(ゆめ)も揺れ函関(かんかん)を渡(わた)る

※頼三樹三郎と薫陶学舎の嶺田楓江は梁川星巌の漢詩塾で同門。
※真田秀吉集録及註『頼三樹詩集』(自家版1960年)参照。
※『日本史籍協會叢書別編32詩歌』(東大出版会1974年)。


橋本左内「獄中作」1859(安政6)年

苦寃難洗恨難禁
●○◎●●◎◎
俯則悲
仰則吟
●●○
●●◎
昨夜城中霜始隕
○●○◎○●●
誰知松柏後凋心
○○○●●○○
※記号の◯は平声●は仄声◎は両用。
※記号は『平仄字典』明治書院準拠。
※平起、韻は下平十二侵(禁吟心)。
※二四不同不規則、二六対規則通り。

【当館の訓読】
「獄中(ごくちゅう)の作(さく)」

苦寃(くえん)洗(あら)い難(がた)く恨(うら)み禁じ難し
俯(ふ)しては則(すなわ)ち悲
○?)仰ぎては則ち吟ず
昨夜(さくや)城中(じょうちゅう)霜(しも)始めて隕(お)つ
誰(たれ)か知らん松柏(しょうはく)後凋(こうちょう)の心を

※橋本左内と頼三樹三郎は安政6年10月7日処刑。
※和本『興風集』(松下邨塾蔵版1868年)参照。
※『日本 漢詩百選』(大陸書房 1977年)参照。
※『江戸漢詩選4・志士』(岩波1995年)参照。

橋本左内「漫成」1859(安政6)年

二十六年

●●●○◎●◎
回看平昔感滋多
◎◎○●●○○
天祥大節
心折
○○●●○○●
土室猶吟正氣歌
●●◎◎◎●○
※記号の◯は平声●は仄声◎は両用。
※『平仄字典新版』(明治書院)準拠。
※仄起、韻は下平の五歌(過多歌)。
※二四不同二六対、下三連規則通り。

【当館の訓読】
「漫成(まんせい)」

二十六年(にじゅうろくねん)夢の
(うち)に過(す)ぐ
平昔(へいせき)を
(かえ)り(み)れば感滋(ますます)多し
天祥(てんしょう)の大節(たいせつ)
にて心折(しんせつ)
土室(どしつ)猶(なお)吟(ぎん)ず正気(せいき)の歌(うた)

※底本は上掲の『明治回天集』(明治13年刊)。
※『橋本景岳全集』所載の詩と4字(青字)異なる。
※『啓発録』(講談社学術文庫1982年)参照。
※文天祥の詩は『元明詩概説』(岩波文庫)参照。

梅田雲浜「就逮(訣別)」1854(安政元)年頃

   妻臥病床兒

   ◎●●○○

   身直欲戎夷
   
○●●○○
   今朝死別
生別
   ○○●●
○●
    唯有皇天后土知 
    ◎●○○●●○ 
※記号の◯は平声●は仄声◎は両用。
※『平仄字典新版』(明治書院)準拠。
※七絶仄起、韻は上平四支(飢夷知
※二四不同二六対、下三連規則通り。

【当館の訓読】
訣別(けつべつ)」

妻(さい)は病床に臥(ふ)し児(じ)は飢えに
(な)く
身(いっしん)直ちに欲(ほっ)す戎夷(じゅうい)を(はら)わんと
今朝(こんちょう)の死別(しにわかれ)
(と)生別(いきわかれ)
唯(ただ)皇天(こうてん)后土(こうど)のみ知(し)る有(あ)らん

※底本は上掲の『明治回天集』(明治13年刊)。
※流布諸本の漢詩とは4字(青字部分程異なる。

※村上利夫著『梅田雲浜の人物像』2015年を参照。
※奈良本辰也著『維新の詩』河合出版1990年参照。


大橋訥庵「辞世」1862(文久2)年

   尊王攘夷豈無時
   ○◎◎○●○○

   何計危言却被疑
   ◎●○○●●○
   至今葢棺吾已矣
   ●
○●○○●●
    秋津州裡一男児
    ○○○○●○○ 
※記号の◯は平声●は仄声◎は両用。
※『平仄字典新版』(明治書院)準拠。
※七絶仄起、韻は上平四支(時疑児
※二四不同二六対不規則、平仄乱調。

【当館の訓読】
辞世(じせい)」

尊王攘夷(そんのうじょうい)豈(あに)時(とき)無からんや
何(なん)ぞ計(はか)らん危言(きげん)却(かえ)って疑われず
棺(ひつぎ)を蓋(おお)う今に至って吾(われ)已(や)んぬ
秋津(あきつ)洲(しま)の裡(うち)一(いち)男兒(だんじ)

  ※底本は上掲の『明治回天集(明治13年刊)。  
※大橋訥庵の死因には毒殺説(坂下門外の変)。
※『近世後期儒家集』日本思想大系1972年参照。
 ※剣光琴韻『青年朗吟詩集』岡村書店1908年参照。

**********

《みんけん館掲示板》

◎4月の行事
4月14日(金);東行顕彰忌
4月20日(木):穀雨、筍掘り
4月22日(土);ズーム研究会
4月29日(土):資料調査


◎みんけん林園 Self Sown Seed System, Experimental Farm
△収穫:ミツバ(並作)、パクチー(並作)、長葱(豊作)、蕗(並作)
△植付:大豆、青紫蘇、赤紫蘇、里芋
△花々:菜花(黄)、蒲公英(黄)、蓮華草(白・紫)、辛夷(白)、空豆の花(白・紫)、岩躑躅(薄紫)

◎異常気象・災害・感染症
▼米国テネシー州、イリノイ州等で竜巻被害。
▼九十九里浜に数十頭のイルカが迷い込む。
▼タイ北部で深刻な大気汚染。

◎みんけん館寄贈寄託資料・連絡通信コーナー
□チラシ「房州とイタリアを愛した画家 寺崎武男・生誕140年」(NPO法人安房文化遺産フォーラム2023年3月25日~4月5日)
□チラシ「河野広中没後100年記念展 石川地方の人々と河野広中」(福島県石川町立歴史民俗資料館2023年3月25日~5月28日)
□チラシ「河野広中没後100年記念 河野広中の生涯」(福島県三春町立歴史民俗資料館・自由民権記念館2023年3月25日~5月28日)
□通信『自由民権記念館だより・自由のともしびVOL94』(高知市立自由民権記念館2023年3月31日)
□会報『秩父№213』(秩父事件研究顕彰協議会2023年3月)



続「厭戦いろは歌留多」Anti-War Proverb Cards Ⅱ

新型コロナには一度も感染しませんでしたが、3月上旬に「帯状疱疹」に罹ってしまい市内の病院に通院しています。一ヵ月が経過し赤い発疹は大分収まりました。神経痛の方が続いており、痛み止めの薬を飲んだり塗ったりして養生に努めています。原因は水疱瘡ウイルスの再活性化のようです。

4月も「厭戦いろは歌留多(日本語・英語)」続編の作成を続けます。自由民権期に出版された近藤堅三英譯『日本いろはたとへ英譯 ALPHABETICAL PROVERBS OF JAPAN, TRANSIATED INTO ENGLISH 』(出版人山岸彌平1886年)を参照します。


(し)
わんぼのきのたね。
A miser likes even the seeds of persimmon.
(前掲書)
平の二刀流はのなる木

two way player Shohe Otani looks like the goose that lays the golden egg
.
(当館)
※「しわんぼ miser 」は、けちな人(けちん坊)のこと。
(2023年4月)


梅田雲浜「就逮(訣別)」1854(安政元)年頃作

   妻臥病床兒

   ◎●●○○

   身直欲戎夷
   
○●●○○
   今朝死別
生別
   ○○●●
○●
    唯有皇天后土知 
    ◎●○○●●○ 
※記号の◯は平声●は仄声◎は両用。
※『平仄字典新版』(明治書院)準拠。
※七絶仄起、韻は上平四支(飢夷知
※二四不同二六対、下三連規則通り。
【当館の訓読】
訣別(けつべつ)」
妻(さい)は病床に臥(ふ)し児(じ)は飢えに
(な)く
身(いっしん)直ちに欲(ほっ)す戎夷(じゅうい)を(はら)わんと
今朝(こんちょう)の死別(しにわかれ)
(と)生別(いきわかれ)
唯(ただ)皇天(こうてん)后土(こうど)のみ知(し)る有(あ)らん

※漢詩の底本は上掲の『明治回天集』(1880年)。
※流布諸本の漢詩とは4字(青字部分程異なる。

※村上利夫著『梅田雲浜の人物像』2015年を参照。
  ※北島正元著『梅田雲浜』地人書館1943年を参照。 
 


橋本左内「漫成」1859(安政6)年作

二十六年

●●●○◎●◎
回看平昔感滋多
◎◎○●●○○
天祥大節
心折
○○●●○○●
土室猶吟正氣歌
●●◎◎◎●○
※仄起、韻は下平の五歌(過多歌)。
※二四不同二六対、下三連規則通り。
【当館の訓読】
「漫成(まんせい)」
二十六年(にじゅうろくねん)夢の
(うち)に過(す)ぐ
平昔(へいせき)を
(かえ)り(み)れば感滋(ますます)多し
天祥(てんしょう)の大節(たいせつ)
にて心折(しんせつ)
土室(どしつ)猶(なお)吟(ぎん)ず正気(せいき)の歌(うた)

※底本は上掲の『明治回天集』(明治13年刊)。
※『橋本景岳全集』所載の詩と4字(青字)異なる。
※文天祥の詩は『元明詩概説』(岩波文庫)参照。


頼三樹三郎「出都途上(過函嶺)」1859(安政6)年

當年意氣欲凌雲
◎○●●●○○
快馬東馳不見山
●●○○◎●○
今日危途春雨冷
○●○○○●●
檻車揺夢度函關
●○◎◎●○○
※平起、韻は上平の十五刪(
山關)。
※二四不同二六対、下三連規則通り。
【 訓 読 】
「函嶺(かんれい)を過(す)ぐ」
当年(とうねん)の意気(いき)雲を凌(しの)がんと欲(ほっ)す
快馬(かいば)を東(ひがし)へ馳(は)せ山(やま)を(み)見ず
今日(こんにち)危途(きと)春雨(しゅんう)冷(ひ)ややかなり
檻車(かんしゃ)夢(ゆめ)も揺れ函関(かんかん)を渡(わた)る
※頼三樹三郎と橋本左内は1859年10月7日に処刑された。
※頼三樹三郎と薫陶学舎の嶺田楓江は梁川星巌の漢詩塾で同門。
※真田秀吉集録及註『頼三樹詩集』(自家版1960年)参照。
※『日本史籍協會叢書別編32詩歌』(東大出版会1974年)。

大橋訥庵「辞世」1862(文久2)年作

   尊王攘夷豈無時
   ○◎◎○●○○

   何計危言却被疑
   ◎●○○●●○
   至今葢棺吾已矣
   ●
○●○○●●
    秋津州裡一男児
    ○○○○●○○ 
※七絶仄起、韻は上平四支(時疑児
※二四不同二六対不規則、平仄乱調。
【当館の訓読】
辞世(じせい)」
尊王攘夷(そんのうじょうい)豈(あに)時(とき)無からんや
何(なん)ぞ計(はか)らん危言(きげん)却(かえ)って疑われず
棺(ひつぎ)を蓋(おお)う今に至り吾(われ)已(や)んぬ
秋津(あきつ)洲(しま)の裡(うち)一(いち)男兒(おのこ)

  ※底本は上掲の『明治回天集(明治13年刊)。  
※大橋訥庵の死因には毒殺説(坂下門外の変)。
※『近世後期儒家集』日本思想大系1972年参照。
 ※剣光琴韻『青年朗吟詩集』岡村書店1908年参照。


西郷隆盛「偶成」1869年~1870年頃作

   世上毀誉軽似塵
   ●●●◎◎●○

   眼前百事偽
   
●○●●●
   追思孤島幽囚楽
   
○◎○●○○●
    不在今人在古人
    ◎●○○●●○ 
※仄起、韻は上平十一真(塵真人
※二四不同二六対、下三連規則通り。
【当館の訓読】
偶成(ぐうせい)」
世上の毀誉(きよ)軽(かろ)き事塵(ちり)に似たり
眼前(がんぜん)の百事(ひゃくじ)偽(ぎ)か真か
追思(ついし)すれば孤島幽囚(ゆうしゅう)の楽しみ
今人(きんじん)には在(あ)らず古人(こじん)に在りし

※転句「孤島幽囚」は沖永良部島流罪の頃を指す。
  ※底本は松尾善弘『増補改訂西郷隆盛漢詩全集』。  
※『西郷隆盛全集・第4巻』大和書房1978年参照。
青字は上掲『明治回天集』と異なる漢字と平仄。

杉田定一「就囚時作(十一月五日夜査官二名・・・)」
1878(明治11)年作

既以
身供自由
●●
○◎●○
死生
達又何憂
●○
●●◎○
丈夫心事人知否
●○○●○○●
山自青青水自流
○●○○●●○
※仄起、韻は下平十一尤(由憂流
※二四不同二六対、下三連規則通り。
【当館の訓読】
「就囚時(しゅうしゅうじ)の作」
既(すで)に斯(こ)の身を以って自由に供(そな)う
死生(しせい)窮達(きゅうたつ)又(また)何をか憂えん
丈夫(じょうぶ)の心事(しんじ)人知るや否(いな)や
山(やま)自(おのずか)ら青青(あおあお)とし水自ら流る

※杉田は豪農自由党員(自郷社・衆議院議長)。
※底本は上掲『明治回天集』(明治13年刊)。

※池内啓『杉田定一研究ノート』1968年を参照。
※前川幸雄『福井縣漢詩文の研究』2019年参照。

(参考)杉田定一「過函嶺次頼三樹被捕過作韻」
1878(明治11)年作

西風淅瀝拂林雲
○◎●●●○○
天末何邊是故山
○●◎○●●○
弧客空澆懐舊涙
○●◎○○●●
疎鐘落日古函關
○○●●●○○
※上掲頼三樹「過函嶺」と同じ護送中作。
※平起、次韻は上平十五刪(山關)と雲
※二四不同二六対で、下三連も規則通り。
【当館の訓読】
「函嶺(かんれい)を過(す)ぎ、頼三樹の捕われ過ぐる作の韻に次(じ)す」
西風淅瀝(せきれき)として林雲(りんうん)を払う
天末(てんまつ)何(いず)れの辺(あた)りか是(これ)故山
弧客(こかく)空しく懐旧(かいきゅう)の涙を澆(そそ)ぐ
疎鐘(そしょう)落日(らくじつ)古(いにしえ)の函関(かんかん)
※底本は杉田定一『血痕集』(漢詩集1879年)。
※杉田は生涯に3度投獄、2度目の時の獄中作。
※杉田の『血痕集』は1978年に五百部縮刷復刻。


《みんけん館掲示板》

◎5月の行事
5月 3日(水);憲法記念日
5月 5日(金):こどもの日
5月20日(土):君塚省三顕彰忌

◎みんけん林園 Self Sown Seed System, Experimental Farm
△収穫:パクチー(並作)、玉葱(並作)
△植付:大豆、青紫蘇
△花々:蓮華草(白・紫)、空豆の花(白・紫)パクチーの花(白)

◎異常気象・災害・感染症
▼石川県で大地震。
▼千葉県南部を震源とする地震、震度5強。

◎みんけん館寄贈寄託資料・連絡通信コーナー
□『茂原市史調査報告書第8集 千葉三郎関係文書調査報告書(上)(下)』(茂原市教育委員会2023年3月31日)
□チラシ「河野広中没後100年記念展 石川地方の人々と河野広中」(福島県石川町立歴史民俗資料館2023年3月25日~5月28日)
□チラシ「河野広中没後100年記念 河野広中の生涯」(福島県三春町立歴史民俗資料館・自由民権記念館2023年3月25日~5月28日)
□会誌『成田市史研究第47号』(成田市教育委員会2023年3月)
□会誌『忘らえぬかも第12号』(大網白里市郷土史研究会2023年4月1日)
□書籍『新房総吟行案内』(俳人協会2023年4月30日)
□冊子『思文閣古書資料目録第277号』(思文閣出版古書部2023年5月)



続「厭戦いろは歌留多」Anti-War Proverb Cards Ⅱ

筆者が日頃お世話になってきました弁護士の福武公子さんが4月下旬に他界されました。福武弁護士には今まで何度も法律上の相談をし、アドバイスを頂戴しました。生前の御厚誼に感謝し心より御冥福をお祈り申し上げます。

5月も「厭戦いろは歌留多(日本語・英語)」続編の作成を続けます。近藤堅三英譯『日本いろはたとへ英譯 ALPHABETICAL PROVERBS OF JAPAN, TRANSIATED INTO ENGLISH 』(出版人山岸彌平1886年)を参照します。


(さ)
・さるもきからおちる。
Even a monkey sometimes falls from a tree.
(前掲書)
・債務問題のアメリカは椅子から転がり落ちる。
D
ebt America falls from its chair.(当館)


(2023年5月)



《みんけん館掲示板》

◎6月の行事
6月 2日(金):鶉山(じゅんざん)翁生誕祭(杉田定一顕彰)
6月 9日(金);巨峰忌(安田勲顕彰)
6月19日(月):
房総自由民権資料館創立記念日(11周年)

◎みんけん林園 Self Sown Seed System, Experimental Farm
△収穫:パクチー(並作)、玉葱(並作)
△植付:大豆、青紫蘇、薩摩芋、長葱(移植)、オクラ(種蒔)、生姜(移植)
△花々:パクチーの花(白)

◎異常気象・災害・感染症
▼雨台風と線状降水帯、東海地方に洪水被害。

◎みんけん館寄贈寄託資料・連絡通信コーナー
□書籍『新房総吟行案内』(俳人協会2023年4月30日)
□冊子『思文閣古書資料目録第277号』(思文閣出版古書部2023年5月)
□会報『秩父№214』(秩父事件研究顕彰協議会2023年5月)
□会報(デジタル)『全国みんけん連ニュース№6』(全国みんけん連2023年5月31日)



特別企画「自由民権と幕末の獄中詩」解説

3月の中旬に「帯状疱疹」を発症し市内の病院に通院しています。そろそろ3ヵ月が経過しますが、神経痛が続いています。久々に病吟の拙句。

皺皺(しわしわ)の帯状疱疹老(お)いの春  ・・・凡一(ぼんいつ)
 梅雨寒(つゆざむ)も神経痛も皺(しわ)の肌 ・・・同上

先日、新型コロナ第6回目ワクチン接種の案内が市役所から郵送されてきました。神経の痛みに耐え、生き長らえて「獄中詩」の検討を継続します。

杉田定一「就囚時作③(幽囚雑吟)」1876(明治9)年作
 二十余年夢裏消
 ●●○○◎●○
 毎思往時涙蕭蕭
 ●◎●●●○○
 功名非壓倒千古
 ○○◎●●○●
 恐取英雄地下嘲
 ●●○○●●○

※記号の◯は平声、●は仄声、◎は両用。韻は下平二蕭(消蕭)と三肴(嘲)。二四不同二六対、下三連規則通り。転句の第六字「千○」が弧平だが、第四字ではないので気にしなかったのだろう。

【当館の訓読】
「幽囚雑吟(ゆうしゅうざつぎん)」
二十余年(よねん)夢(ゆめ)の裏(うち)に消(き)ゆ
往時(おうじ)を思う毎(ごと)に涙(なみだ)蕭蕭(しょうしょう)
功名(こうみょう)千古(せんこ)を圧倒するに非(あら)ずんば
恐らくは英雄(えいゆう)地下(ちか)にて嘲(あざけ)るを取らん

※底本は『血痕集』(草稿参照)にし、当館独自に訓読。『明治回天集』は承句(「更無一事記功標」更に一事の功標に記す無し)と転句(「男兒不奏驚天業」男兒驚天業を奏せずんば)が異なる。初出は『中外評論』第17号1876年9月発行の「獄中雑吟」。杉田は1876(明治9)年の筆禍事件で初めて投獄された(前川幸雄『福井縣漢詩文の研究』年譜)。「幽囚雑吟」起句と橋本左内「慢成」起句は殆ど同一の趣向。

杉田定一「就囚時作④(幽囚雑吟)」1876(明治9)年作
 不駕長風破壯瀾
 ◎●●◎●●○
 可堪獄裏久偸安
 ●○●●●○○
 半宵感慨蹴衾起
 ●○●●●○●
 月色如霜入牗寒
 ●●◎○●●○

※仄起、韻は上平十四寒(瀾安寒)、二四不同二六対、下三連規則通り。

【当館の訓読】
「就囚(しゅうしゅう)の時(とき)の作(さく)
長風(ちょうふう)に駕(が)して壮瀾(そうらん)を破(やぶ)らず
堪(た)うべけんや獄裏(ごくり)久しく安(あん)を偸(ぬす)むに
半宵(はんしょう)感慨(かんがい)衾(ふすま)(を)蹴(け)って起(た)つ
月色(げっしょく)霜(しも)の如(ごと)く牗(まど)に入(い)って寒し

※底本は『明治回天集』、訓読は『中外評論』第17号の訓点を踏襲。転句は「起てば」と訓読することもできるだろう。結句の「牗●」の字は「窓○」と同義だが、平仄の基本の二六対(にろくつい)通りに、「仄声」の「牗●」の字体を用いたものと考えられる。


杉田定一「就囚時作②(咏史)」1876(明治9)年作
 自由眞理鑄精神
 ●○○●●○○
 碌碌豈為卑屈民
 ●●●◎○●○
 止矣言論無用耳
 ●●○◎○●◎
 一刀只合斃奸臣
 ●○●●●○○

※平起、韻は上平十一真(神民臣)。二四不同二六対、下三連規則通り。

【当館の訓読】
「就囚(しゅうしゅう)の時(とき)の作(さく)」1876(明治9)年作
自由の真理(しんり)精神(せいしん)を鋳(い)る
碌々(ろくろく)豈(あに)卑屈民(ひくつみん)と為(な)らんや
止矣(やんぬるかな)言論(げんろん)無用(むよう)のみ
一刀(いっとう)只(ただ)合(まさ)に奸臣(かんしん)を斃(たお)すべし

※士族反乱が頻発した頃の杉田の獄中所感。底本は上掲『明治回天集』(1880年刊)。初出は『中外評論』の第17号(1876年9月)の「咏史」。『中外評論』は、転句の「止矣」が「已矣」となっている。この獄中詩は何故か『血痕集』には収録されなかった。池内啓『杉田定一研究ノート』福井大学教育学部紀要1968年を参照。

杉田定一「就囚時作①(十一月五日夜査官二名卒然來拘引余福井警察署臨發賦一絶遺家)」1878(明治11)年作

 既以斯身供自由
 ●●○○◎●◎
 死生窮達又何憂
 ●○○●●◎○
 丈夫心事人知否
 ●○○●○◎●
 山自青青水自流
 ○●○○●●○

※仄起、韻は下平十一尤(由憂流)。二四不同二六対、下三連規則通り。

【当館の訓読】
「就囚(しゅうしゅう)の時(とき)の作①」
既(すで)に斯(こ)の身を以って自由に供(そな)う
死生(しせい)窮達(きゅうたつ)又(また)何をか憂えん
丈夫(じょうぶ)の心事(しんじ)人知るや否(いな)や
山(やま)自(おのずか)ら青青(あおあお)とし水自ら流る

※底本は上掲『明治回天集』(1880年刊)。杉田は豪農自由党員(自郷社→衆議院議長)。池内啓『杉田定一研究ノート』1968年、前川幸雄『福井縣漢詩文の研究』朋友書店2019年を参照。

(参考)杉田定一「過函嶺次頼三樹被捕過作韻」1878(明治11)年作
 西風淅瀝拂林雲
 ○◎●●●○○
 天末何邊是故山
 ○●◎○●●○
 弧客空澆懐舊涙
 ○●◎○○●●
 疎鐘落日古函關
 ○○●●●○○

※頼三樹三郎「過函嶺(かんれいをすぐ)」(既述)と同じ護送中作。平起、杉田定一の次韻は上平十五刪(山關)と「雲」。二四不同二六対で、下三連も規則通り。

【当館の訓読】
「函嶺(かんれい)を過(す)ぎ、頼(らい)三樹(みき)の捕われ過ぐる作の韻に次(じ)す」
西風(せいふう)淅瀝(せきれき)として林雲(りんうん)を払う
天末(てんまつ)何(いず)れの辺(あた)りか是(これ)故山(こざん)
弧客(こかく)空(むな)しく懐旧(かいきゅう)の涙を澆(そそ)ぐ
疎鐘(そしょう)落日(らくじつ)古(いにしえ)の函関(かんかん)

※底本は杉田定一『血痕集』(漢詩集1879年)。杉田は生涯に3度投獄され、この詩は2度目の時の獄中作。杉田の『血痕集』は1978年に五百部縮刷復刻された。大槻弘『越前自由民権運動の研究』法律文化社1980年、『福井県史 通史編5近現代一』福井県1994年(池内啓分担執筆)、『杉田定一関係文書史料集(第一巻)(第二巻)』大阪経済大学日本経済史研究所2010年~2013年、家近良樹『ある豪農一家の近代』講談社2015年等を参照。


(2023年6月)