2024年

《みんけん館掲示板》

◎1月の行事
1月 4日(木):仕事始め
1月11日(木):秀峰忌(板倉中の妻の命日)
1月24日(水):秋水忌

◎みんけん林園 Self Sown Seed System, Experimental Farm
△収穫:里芋(並作)
△植付:
△花々:山茶花(桃)、水仙(白・黄)、菜の花(黄)

◎異常気象・災害・感染症
▼石川県能登半島周辺で震度7の大地震。

◎みんけん館寄贈寄託資料・連絡通信コーナー
□書籍『俳句500年 名句をよむ』(コールサック社2023年12月8日)
□会報『全国みんけん連ニュース№8』(全国自由民権研究顕彰連絡協議会2023年12月10日)
□冊子『思文閣古書資料目録第280号』(思文閣出版古書部2023年12月)



収蔵資料解説「漢詩と民権運動」

新年明けましておめでとうございます。昨年末に寄贈して頂いた『俳句500年 名句をよむ』からユニークな佳句を五句選んでみました。

・下々(げげ)も下々下々の下国(げこく)の涼しさよ       一茶
・寒からう痒(かゆ)からう人に逢ひたからう           子規
・凡(およ)そ天下に去来(きょらい)程の小さき墓に参りけり   虚子
・無数(むすう)蟻(あり)ゆく一つぐらゐは遁走(とんそう)せよ 楸邨
・銀行員等(ら)朝より蛍光(けいこう)す烏賊(いか)のごとく  兜太

幸徳秋水「辛亥歳朝偶成」1911年1月1日作
 獄裡泣居先妣喪
 ●●●○◎●韻
 何知四海入新陽
 ◎◎●●●○韻
 昨宵蕎麦今朝餅
 ●○○●○○●
 添得罪人愁緒長
 ○●●○○●韻
(中島及『幸徳秋水漢詩評釈』高知市民図書館1978年)

※記号の○は平声、●は仄声、◎は両用、起句の第二字が仄声なので仄起。韻は下平七陽(喪・陽・長)。二四不同、二六対、下三連不可、第四字の弧平不可の原則が厳守されている。

【訓読Ⅰ】
 獄裡(ごくり)に泣居(きゅうきょ)して妣(ひ)の喪(そう)を先(き)く
 何んぞ四海(しかい)の新陽(しんよう)に入るを知らんや
 昨宵(さくしょう)の蕎麦(そば)今朝の餅
 添え得たり罪人(ざいにん)愁緒(しゅうしょ)の長きを

※訓読は上掲『幸徳秋水漢詩評釈』(高知市民図書館1978年)と『幸徳秋水全集第8巻』(明治文献1972年)を参照。

【訓読Ⅱ】
 獄裡 泣きて先(なき)妣(はは)の喪(も)に居り
 何ぞ知らん 四海の新陽(しんねん)に入るを
 昨宵の蕎麦 今朝の餅
 添え得たり 罪人の愁緒長きを

※この訓読は、飛鳥井雅道編『近代日本思想大系13幸徳秋水集』382頁(筑摩書房1975年)に拠る。起句の「先」を「なき」と読み、承句の「新陽」を「しんねん」と読む。中島及の訓読とは異なっている。

【当館の現代口語風訓読】
 辛亥(しんがい)の歳(とし)の朝(あさ)偶成(ぐうせい)
 獄(ごく)の裡(うち)で泣いて居(い)る、妣(はは)の喪(も)が先(さき)になり
 何(なん)で知るだろうか、四海の新陽(しんよう)に入(はい)ったのを
 昨(きのう)の宵(よい)は蕎麦(そば)、今朝(けさ)は餅(もち)
 添(そ)えて得たのは、罪人(ざいにん)の愁緒(しゅうしょ)が長くなったこと

※現代風訓読は小川環樹『唐詩概説』の「唐詩の助字」を参照。起句の「妣」は幸徳の母。承句の「新陽」は新年(明治44年)、「四海」は四方の海、転じて世の中。転句の「蕎麦」は晦日蕎麦で、「餅」は元旦の雑煮か。結句の「罪人」は東京監獄の幸徳自身、「愁緒」は嘆き悲しむこと。母親の多治は1910(明治43)年11月28日に最後の面会をして、12月27日に病死した。秋水は翌1911(明治44)年1月24日に他界した(『幸徳秋水全集別巻二』)。

(以下続く)




《みんけん館掲示板》

◎2月の行事
2月 3日(土):節分
2月14日(水):耕雨忌(房総の民権家俳人、服部治左衛門の命日)
         穐(あき)の声銀河や墜(お)ちて砕け舞(まう)※耕雨吟
2月16日(金):確定申告(オンライン申請)準備

◎みんけん林園 Self Sown Seed System, Experimental Farm
△収穫:甘夏(並作)
△植付:ジャガイモ
△花々:水仙(白・黄)、菜の花(黄)、紅梅、白梅、空豆の花(白・紫)

◎異常気象・災害・感染症
▼石川県能登半島大地震、避難・停電・断水。

◎みんけん館寄贈寄託資料・連絡通信コーナー
□会誌『千葉史学第83号』(千葉歴史学会2023年11月)
□書籍『近現代と古儒学-織本東岳、山田喜之助、佐生磊研究ノート』(私家版2024年1月28日)
□通信『評論№229』(日本経済評論社2024年1月)
□会報『秩父№218』(秩父事件研究顕彰協議会2024年1月)※村竹茂市の墓碑
□会報『福島自由民権大学通信32号』(福島自由民権大学事務局2024年2月15日)



収蔵資料解説「漢詩と民権運動」

2月も幸徳秋水の漢詩を鑑賞してみましょう。先月と先々月は晩年の秋水の獄中詩を鑑賞しましたが、今月は青年期(三大事件建白と保安条例の頃)の五言絶句です。

幸徳秋水「此歳冬偶為遂客歸乗舟下濟河」1887年冬頃作
 前嶺逆風走
 ○●●◎●
 孤帆先水馳
 ○◎◎●韻
 哀吾歸路急
 ○○◎●●
 功業一遅々
 ○●●◎韻
(上掲『幸徳秋水の日記と書簡』未来社1954年、中島及『幸徳秋水漢詩評釈』高知市民図書館1978年)

※記号の○は平声、●は仄声、◎は平仄両用、起句の第二字が仄声なので仄起。韻は上平四支(馳・遅)。五言絶句の二四(にし)不同、下三連(しもさんれん・あさんれん)不可の原則が厳守されている。

【訓読Ⅰ】(明治前期風訓読)
「此(こ)の歳(とし)の冬(ふゆ)、偶(たまたま)遂客(ちっかく)と為(な)って帰(かえ)り、舟(ふね)に乗(の)って下(くだ)り河(かわ)を濟(わた)る」
 前嶺(ぜんれい)を風(かぜ)に逆(さか)らって走(はし)る
 孤帆(こはん)は水(みず)に先(さき)んじて馳(は)せる
 哀(あわ)れむべし吾(わ)が帰路(きろ)の急(きゅう)なるを
 功業(こうぎょう)一(いつ)に遅々(ちち)たり

※訓読は『幸徳秋水全集第8巻』(明治文献1972年)と『幸徳秋水全集第9巻』(明治文献1969年)を参照。「逐客(ちっかく)」は追い払われた者のこと、転じて1887年の「保安条例」による首都退去者か。

【訓読Ⅱ】(当館の現代口語風訓読)
 嶺(みね)の前(まえ)を風(かぜ)に逆(むか)って走(はし)る
 弧(ひとつ)の帆(ほかけぶね)は水(みず)よりも先(さき)に馳(か)ける
 吾(わ)が帰路(きろ)を急(いそ)ぐのは哀(かな)しいが
 功業(こうぎょう)は一(もっぱら)遅(のろ)い、遅(のろ)いもの
 
※現代風訓読に当たっては、上掲『唐詩概説』の「唐詩の助字」を参照。「嶺」は箱根の「函嶺」を指すか、「水」は淀川か、それとも「紀伊水道」か。「功業」は功績の著しい事業のことだが、当時の三大事件建白(言論集会の自由・地租軽減・外交失策の挽回)を指すのだろう。

(以下続く)



《みんけん館掲示板》

◎3月の行事
3月 3日(日):雛祭
3月20日(水):春分の日(墓参)
3月31日(日):自治体史研究会

◎みんけん林園 Self Sown Seed System, Experimental Farm
△収穫:甘夏(並作)
△植付:ジャガイモ
△花々:菜の花(黄)、紅梅、白梅、空豆の花(白・紫)

◎異常気象・災害・感染症
▼房総半島沿岸で群発地震発生(震度1~震度4)。

◎みんけん館寄贈寄託資料・連絡通信コーナー
□書籍『近現代と古儒学-織本東岳、山田喜之助、佐生磊研究ノート』(私家版2024年1月28日)
□会報『福島自由民権大学通信32号』(福島自由民権大学事務局2024年2月15日)



収蔵資料解説「漢詩と民権運動」

2月は幸徳秋水の若い頃(「三大事件建白」と「保安条例」前後)の五言絶句を鑑賞しました。3月は日露戦争期の反戦(非戦)漢詩を鑑賞してみましょう。

幸徳秋水「次大内青巒先生見寄韻三首」1904年9月25日※週刊平民新聞所載
 又聽家々慟哭頻
 ●◎○○●●韻
 哀々寡婦命如塵
 ○○●●●◎韻
 蕭條門巷日斜處
 ○○○●●○●
 如虎吏人催税臻
 ◎●●○○●韻
(中島及『幸徳秋水漢詩評釈』高知市民図書館1978年)

※記号の○は平声、●は仄声、◎は平仄両用、起句の第二字が仄声なので仄起。韻は上平十一真(頻・塵・臻)。七言絶句の二四不同(にしふどう)、二六対(にろくつい)、下三連(しもさんれん・あさんれん)不可(ふか)の原則が厳守されている。「々」、「如」が同字重出となっているが許容範囲だろう。

【訓読Ⅰ】(明治前期風訓読)
「大内青巒(せいらん)先生の寄(よ)せ見(られ)し韻に次(じ)す三首」
 又聴く家々に慟哭(どうこく)の頻(しき)りなるを
 哀々(あいあい)たる寡婦(かふ)の命は塵(ちり)の如し
 蕭条(しょうじょう)たる巷(ちまた)の門、日斜めなるの処
 虎の如き吏人(りにん)至(いた)って税を催(うなが)す

※訓読は上掲『幸徳秋水の漢詩評釈』を参照。大内青巒は仏教思想研究者で元東洋大学長。「次韻」は同韻、同字、同順で押韻すること。「寡婦」は戦争未亡人、「蕭条」はもの寂しい様子。

【訓読Ⅱ】(当館の現代口語風訓読)
 あの家(うち)もこの家(うち)も、又(また)慟哭(なきごえ)が頻(しき)りに聴(き)こえる
 哀(かな)しいか哀(かな)しいか寡婦(みぼうじん)、まるで命(いのち)が塵(ちり)の如(よう)ではないか
 巷(ちまた)の門(かど)は蕭条(ものさび)しく、日(ひ)は斜(なな)めにさす処(ところ)
 虎(とら)の如(よう)な吏人(やくにん)は至(いた)り、税(ぜい)を催(うなが)しているのだ。

※幸徳秋水には、この七言絶句と同じ趣旨の名文の論説「嗚呼増税!」(『週刊平民新聞第20号』1904年3月27日、無署名)がある。「多数の同胞は鋒鏑(ほうてき)に曝(さら)され、其(その)遺族は飢餓に泣き、商工(しょうこう)は萎靡(いび)し、物価は騰貴(とうき)し、労働者は業(なりわい)を失ひ・・・其(その)極(きわみ)多額の苛税(かぜい)となって、一般細民(さいみん)の血を涸(から)し」と論述されている(『幸徳秋水全集第五巻』明治文献1968年)。「鋒鏑」は日露戦争の兵器、「商工」は商業と工業、「苛税」は重い税、「細民」は貧乏な民衆のこと。

(以下続く)


《みんけん館掲示板》

◎4月の行事
4月14日(日):東行顕彰忌
4月19日(金):穀雨(筍掘り)

◎みんけん林園 Self Sown Seed System, Experimental Farm
△収穫:芹、蕗、ミツバ
△植付:南瓜、オクラ、葱、茄子
△花々:辛夷(白)・桜(白)・空豆の花(白・紫)、蒲公英(黄)、チューリップ(赤・桃・白)

◎異常気象・災害・感染症
▼台湾東部で大地震(マグニチュード7.7)
▼インドネシアのルアン山で大噴火(1万人超避難)
▼愛媛県、高知県で大地震(マグニチュード6.6)

◎みんけん館寄贈寄託資料・連絡通信コーナー
□抜刷『史苑211号』(立教大学史学会2024年2月)※特集、朝河寛一生誕150周年記念シンポジウム「戦争に向かう世界:1930年代と朝河寛一」
□会報『福島自由民権大学通信33号』(福島自由民権大学事務局2024年3月31日)
□会報『秩父№219』(秩父事件研究顕彰協議会2024年3月)※萩原勘次郎の墓碑
□通信『全国みんけん連ニュース№9(デジタル版)』(全国自由民権研究顕彰連絡協議会2024年4月1日)



収蔵資料解説「漢詩と民権運動」

3月は、日露戦争期の幸徳秋水の非戦漢詩(次韻)を一首鑑賞しました。4月は次韻の元(もと)になった大内青巒(おおうち・せいらん)の漢詩を鑑賞し、比較してみましょう。

大内青巒(退)「時事有感」1904年9月25日※週刊平民新聞に紹介
 旅順遼陽捷報

 ●●○○●●韻
 滿城狂気動紅

 ●○○●●○韻
 獨憐野老暗嗚咽
 ●○●●●◎●
 金鵄未來白骨

 ○●●◎●●韻
(『週刊平民新聞』第46号1904年9月25日発行)

※記号の○は平声、●は仄声、◎は平仄両用、起句の第二字が仄声なので仄起。韻は上平十一真(
)。七言絶句の二四不同(にしふどう)、二六対(にろくつい)、下三連(しもさんれん・あさんれん)不可(ふか)の基本原則が順守されている。

【当館訓読】(明治後期風訓読)
「時事(じじ)に感(かん)有(あ)り」
 旅順(りょじゅん)遼陽(りょうよう)捷報(しょうほう)頻(しき)りなり
 満城(まんじょう)の狂気(きょうき)紅塵(こうじん)を動(うご)かす
 独(ひと)り憐(あわ)れむ野老(やろう)暗(くら)き嗚咽(おえつ)
 金鵄(きんし)未(いま)だ来(きた)らず白骨(はっこつ)至(いた)る

※起句の「旅順」(リューシュン)と「遼陽」(リャオヤン)は日露戦争の激戦地で、「捷報」は勝報と同じ意味。承句の「紅塵」は市街地の土ぼこりのことで、転句の「野老」は田舎の年老いた男。結句の「金鵄」は軍人の勲章、「白骨」は出征した日本人兵士の遺骨と思われる。

※幸徳秋水の「次韻」の平仄(3月の「収蔵資料解説」参照)
 又聽家々慟哭

 ●◎○○●●韻
 哀々寡婦命如

 ○○●●●◎韻
 蕭條門巷日斜處
 ○○○●●○●
 如虎吏人催税

 ◎●●○○●韻


(以下続く)